大概は「かわいくなった」だったが、
体育のダンス教師は「少し、肉が付き過ぎましたね」
白いジャージでサークルに出ると、
「雪だるまがいると思った」
自分自身、分かっていた。
太り過ぎてしまい、尚且つ食欲は止まらない。
更に、嫌なこと、自己嫌悪を感じること、そのような
場合に私は食べ物に慰めを求めているってこと。
もはや習慣になっていた。
ヒマならば、入ってみたかった店に行き食べる。
嫌なことがあれば、食欲を満たすことでそれをすり替える。
そう、色々と心に負担がかかったら、その問題を解決する努力を
放棄し、食べて満たされる幸福感で有耶無耶にしていたのだ。
勿論、お金はかかる。
その分、短期バイトを増やし、稼いではそのストレスを食べ物で満たす
、という繰り返しの日々を送っていた。
長期バイトは続かなかった。
ちょっとでも自分に非があることがあると、辞めてしまう。
激辛カレーの店でバイトしていた時、足元に置いてあったアイスコーヒーの
やかんをひっくり返してしまった。
その日は、暑いにも関わらずアイスコーヒーはメニューから消えた。
店長は「気にしなくてもいいよ」と言ったが、
私は辞めた。
私には変なプライドがあり、完璧にできなければもうダメ、という
図式が頭の中に出来上がっていたのだ。
ゼロと1の世界。
数字に頼る。
体重が全て。
でも、私の体重はみるみるうちに増えていった。
当たり前のことだが・・・・。
もう、適性体重になったら食欲は戻る、などと言う、
拒食症の文献は頭から消えていた
どんな時でも、食べることで自分を納得させていた。
今まで禁止していた、好きなモノを食べれば心は満たされる。
しかし、体重増加の恐怖が伴う。
これは、理想体型になって、皆と楽しく学生生活を送りたい、という
私の願いから反していた。
拒食症の文献を読んでいたら・・・。
「多食症(この頃は、過食症とは呼ばれていなかった)の患者は、
口に手を突っ込んで食べたものを吐き出すケースが見られる」
とあった。
吐く・・・?
食べ物のおいしさを充分味わい、後は吐いてしまってカロリーは
無かったことにする?
最高じゃない!?
体質的に、吐くことができる人とできない人がいるらしい。
思い切って、充分食べた後に吐いてみた。
私は吐ける体質だった。
抑制していた食欲を充分に満たし、無かったことにする。
こうすれば、吐いた後でも更に多食することができる!
一旦胃に入り、消化と吸収を命じられた脳が、胃の中に
何もないことにパニックを起こし、更に食欲を増加させる、
という仕組みを理解していなかった。
私は、行動範囲のあらゆるトイレを確認し、多食をしたら
すぐに吐くようになった。
初期の頃は、多食に対し、吐く量が充分ではなかったため、
ドラえもんのように太ってしまった。
1年を終わるころ、私は50Kgを超えていた。
18歳という、自然な年頃の肉付きも加え、私はパンパンに
太っていた。
そしてそれは、私の望む”自分”ではなかった・・・。